過労死等の労災保障状況に見るメンタルヘルスケアの重要性

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ジャンル:労務管理

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厚生労働省が平成28年度の「過労死等の労災補償状況」を発表しました。それによると、労災の請求件数は前年度と比べて101件の増加となっています。社会問題化する過労死ですが、未だ解決への糸口は見えておらず、とりわけ精神障害に関しては、増加の一途を辿っています。過労死の原因や労災保障の現状についてご紹介します。

2種類の過労死とそのメカニズム

過労死の直接的な原因として知られているのが、次の2つです。

まず1つ目が、働きすぎによって発症する脳・心臓疾患による死亡です。長い時間に渡って労働し続け、疲労が積み重なると、血圧が上昇する傾向があることがわかっています。すると血管に大きな負担がかかり、徐々にダメージが蓄積することで、結果的に動脈硬化を促し、重大な疾患を引きおこすことがあります。脳疾患の代表的なものとしては、脳出血・くも膜下出血・脳梗塞・高血圧性脳症などが挙げられます。心疾患で多いのが、心筋梗塞・狭心症・心停止・解離性大動脈瘤です。

2つ目が、強いストレスによって発病した精神障害による死亡です。荷重な労働は、精神上のバランスを失わせ、抑うつ状態・うつ病を招き、時に死への願望を抱かせます。人によってストレスへの耐性は異なり、働く時間と自殺のリスクとは必ずしも比例しないため、職場の上司や同僚の理解不足が、事態を悪化させる傾向ががあるようです。具体的な精神疾患に例としては、うつ病のほか、統合失調症・依存症・パーソナリティ障害・不安障害などが挙げられます。


それぞれの事案に関する労災の補償状況

脳・心臓疾患・精神障害、それぞれの労災補償状況についてみてみましょう。まず、平成28年度の脳・心臓疾患の請求件数は825件でした。前年度と比べて30件の増加となりました。そのうち、業務上の疾病と認められ、労災保険の給付が決定したのは前年度と比べて9件多い260件、死亡件数は前年度と比べて11件多い、107件でした。

脳・心臓疾患については、残業が「80時間以上から100時間未満」の場合の支給決定件数が最も多く106件、続けて「100時間以上」が128件となっており、時間外労働時間との関係が指摘されています。他方、精神障害の平成28年度の請求件数は 前年度よりも71件多い1,586件でした。そのうち、労災保険の支給が決定した件数は498件。前年度と比べて26件多い数字です。支給決定件数のうち、自殺の件数(未遂も含む)は84件でした。

なお、出来事別の支給決定件数としては、「嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が74件と最多となっており、「仕事内容・量の変化を生じさせる出来事があった」が、63件とそれに続いています。


過労死の予防には徹底したメンタルヘルスケアが必要

脳・心臓疾患、精神障害のいずれも、業種別に大きな差が見られます。精神障害による過労死を減らすには、まずはそれぞれの業種特有の原因への対策が求められるでしょう。また、平成28年度の脳・心疾患に関する労災の請求件数は825件であるのに対して、精神障害の労災の申請件数は1,586件です。つまり、労災の疑いがあるもののうち、実に65%以上が精神障害によるものであることがわかります。

脳・心臓疾患については、半年の平均労働時間が80時間となる場合に発症との関連が強いと判断される傾向がありますが、精神障害については必ずしも労働時間との関係が明確ではありません。つまり、精神障害は、労働者本人のストレス耐性に依拠するところが大きく、仮に残業時間を削減したところで、抜本的な解決とはならないのです。個別の労働者に対して柔軟に対応するには、事業場の内外における、周囲の理解と、徹底したメンタルヘルスケアが求められると言えるでしょう