企業経営に欠かせないとメンタルヘルス対策(後編)-海外事例
ジャンル:労務管理
企業経営に欠かせないとメンタルヘルス対策(後編)-海外事例
ジャンル:労務管理
欧米での産業保健活動は歴史が古く、社員のメンタル不調は企業経営における重大なリスク要因として認識されています。海外の企業で行われているメンタルヘルス対策をそのまま日本に導入するのは難しい面もありますが、海外事例を通して自社で実施する対策のヒントを探してみましょう。
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大企業の導入で日本でも注目されるマインドフルネス
マインドフルネスは、アメリカのIntelやGoogleなどの大企業が社員研修などに取り入れたことで有名です。日本でもメンタルヘルス対策の海外事例として2010年頃から注目されるようになりました。瞑想のように自分の呼吸や体の感覚などに意識を向けるようにすると、次第にストレスに対処する力や集中力などが身につくといわれています。瞑想というと、スピリチュアルな印象をもつかもしれませんが、マインドフルネスは心理療法の一つです。病院では主にパニック障害やPTSDなどの治療に用いられています。
マインドフルネスでは不安を取り除いたり、考えを変えたりするのではなく、そのまま受け入れることが大切です。過去へのこだわりや将来の不安にとらわれている状態から「今」に意識を向けると「今、行うべきこと」に集中でき、適切な行動へとつながっていきます。
EAP発祥地、アメリカのEAPは投資効果が大きい!
EAP(Employee Assistance Program)は1960年代にアメリカで誕生した労働者支援プログラムのことです。日本でのEAP導入は社員1,000人以上の企業でも2割に満たないといわれていますが、アメリカでは大企業のほとんどがEAPを利用しています。また、日本のEAPはメンタルヘルス対策として電話相談が主な役割です。しかし、アメリカでは社員とともに家族も含めて支援し、電話相談に留まらず、必要に応じて専門的な機関につなぎ(リファー)、日本に比べより包括的な支援を行っています。支援の範囲も健康問題だけでなく、経済的なことや家族間の問題など個人に起こりうるさまざまな問題までカバーしていることが特徴です。
このようなサービスを行うアメリカのEAPは投資効果が大きく、投資額の5~7倍の効果があるといわれています。EAPを導入した企業では休職者が減少し、生産性が向上したという事例が数多く報告されるなど、アメリカでは企業経営の上で欠かせないサービスとなっています。
フランスではモラル・ハラスメント対策で不調を予防
モラル・ハラスメントの言葉を最初に使ったのは、フランスの精神科医、マリー=フランス・イルゴイエンヌ博士といわれています。モラル・ハラスメントとは言葉や態度によって相手を傷つけ、日常的に繰り返される精神的な暴力のことで、日本では精神的な嫌がらせに近い概念です。フランスでは、モラル・ハラスメントは社員のメンタルヘルスにダメージを与える重大なリスク要因であり、メンタルヘルス対策として取り組むべき課題と考えられるようになりました。このような中でモラハラを規制する法律が2002年に施行され、企業経営者にはモラハラの予防措置が義務となり、適切な措置を講じなかった場合には罰則も定められています。
モラハラ対策としては経営者などの幹部が研修などを通して「何がモラハラに当たるのか」を理解することが必要です。しかし、なかなか理解できないケースも多いため、モラハラの問題が起きたときには精神科医や産業医が法律の専門家などと連携して問題解決に当たり、再発の予防などにも取り組んでいます。